第15回世界コンピュータ将棋選手権
TACOS自戦記

橋本 剛   平成17年5月24日記

  

2次予選

昨年は大掛かりな変更をたくさんしてぶっつけ本番で大会に臨んだ感があった。
今年はかなりバグをつぶし、評価値の全般的な修正や指し手生成の改良などを行い、昨年よりは はっきり強くなった。今回痛かったのは、この一年で私が最も時間を費やした詰み探索の改良と 終盤の大幅な改良が、直前になってもバグを取りきれず泣く泣く導入を見送った事である。

しかし今回ほど直前まで苦しんだのは初めてだった気がする。
一月前や2週間前にも何故かえらく弱く なってしまい苦しんだ経験から何か不安で、3日の夜ホテルに着いてからAI将棋と対戦させてみたが、 どうもおかしい。ついでにノートPCで村田、長嶋とも対戦したがえらい苦戦してる。なんと長嶋君に負けてしまった!
なんかとんでもないバグが入っているような感じだ。3年前の悪夢が蘇る。これはやばい!と思って必死に原因を探す。 他のメンバーは起きていてもしょうがないので先に寝てもらい、夜中みんなが寝てる横で必死に修正をする。
選手権直前でこんなに苦しいのは何年ぶりだろう。ああ、今晩は寝られないかも‥とか考えながらも二つやばそうなバグを 見つけた。一つは最近見つけた駒損判定のバグと同じのがまだ確率計算に残っていたというもの。相居飛車で起きやすそうな バグだ。直したら変な手を指した局面でややましになった。
しかしこのバグで ここまで不安定になるだろうか?と不安を感じながらとりあえずバグを直して4時半ぐらいに就寝した。

一回戦 WILDCAT
WILDCATの花井さん
WILDCATの花井さん

WILDCATさんとは初の対戦。
何かバグがあるんじゃないかと不安の中対局を開始。やはりどうもおかしい。
31手目2五歩打を見て血の気が引いた。何だこれは?どうみても△2四歩と打たれたら 引くしかない。こういう手は絶対指さないように しているはずなのに…
そして案の定飛車を2六に引いた。おかしい。何かが狂ってる。
3年前の悪夢が蘇り、焦りが頂点に達した。
将棋自体はかなり優勢になったが、 93手目1一龍も明らかにおかしい。
しばらくは▲5六桂と打つ手を読んでいたが、 途中で香をとる手に変わってしまった。
3七歩成とされるといっぺんに紛れるのに…
また頭を抱える。焦りで体が熱くなり胃が痛くなる。
心ここにあらずという感じになってしまった。 これは間違いなく何かがおかしい。
結果は何とか勝ててよかったのだが、このクオリティでは決勝などとても行けないだろう。
1勝0敗。




二回戦 礒部将棋
礒部さん
礒部さん

またまた今年も2回戦で礒部将棋と対戦。それにしても毎回毎回よく当たる。 昨年は負けたが、何とか借りを返したいところ。
1回戦の内容を見て、何かがおかしく不安定なので とりあえずこの試合は3日前のバージョンで対戦 させることにした。
私はこの対局を見ながら横で ノートPCを使って不具合の原因を必死に探していた。
この将棋は作戦勝ちになったものの、どうもぱっとしない手が続いておかしいように見え、気が気ではなかった。
だが106手目3五桂打辺りからだんだん感触が良くなってきた。
私もちょうどこの辺りで不安定な原因を見つけた!
どうやら今回購入したメモリ2GBのマシンに合わせてハッシュの量をかなり多く確保したのだが、どうやらそのせいで 何かが壊れていたせいらしい。ノートでハッシュの量を従来どおりにして第一試合の31手目と93手目をやらせてみると どちらもまともな手を指した!この時はうれしくてしょうがなかった。三日前のバージョンよりははっきり強くなっている はずなので、3回戦以降の期待が持てる。
この将棋もTACOSの得意な玉頭攻めが見事に決まって最終的には快勝だった。 何とか昨年の雪辱を晴らし連勝スタート。
不安定なバージョンで負けなかったのは大きい。
2勝0敗。




三回戦 備後将棋
恩本さん
恩本さん

3回戦の相手は24で2400点を超え決勝入りは確実と噂される備後将棋。いきなりの強敵だ。
不安定な原因となっていたハッシュの量を従来どおりに戻して最新版で対戦だ。
戦形は備後の得意な角換わりに。避けようかとも思ったのだが、避けた所で何をすれば いいのかいいアイデアがなかったので敢えて避けないことにした。 恩本さんはTACOSがてっきり振り飛車をしてくると思っていたらしい。
42手目△8六歩からTACOS得意の端桂。ギャラリーからはおおーという声。
50手目△4六角打がこの将棋で一番のポイントになった所。
TACOSも悩んでいたが△8五桂とせずに馬を作る方針になった。実際は△8五桂の方が勝ったようだが、 難しいところで今のTACOSではしょうがないような気もする。 馬を作ったのはいいが53手目8四歩の突き出しも相当大きい。
61手目何故か3三桂不成と来られたところ、なんと不成を咎めて?すぐに桂を取らなかったのも面白いところ。 その後も難しい応酬が続くが、この辺りは私のレベルをとっくに超えていて、善悪は良くわからないが それらしい手が続いているように見えた。
指し手が安定しており、勝敗はともかくこの辺りで 例の不安定状態は脱したと感じることができた。安心感からか胃の調子も良くなって体の熱も引いてきた。
ただ将棋はずっとやや悪かったのだろう。 90手目8七金打と打ってしまってからはもうだめみたいだ。
飯田先生によると8七金と打たないで△8七歩成▲同玉△6八金という筋を含みに見せて粘ればまだまだ難しかったらしい。 結局負けはしたが、完全に私の棋力を超えた戦いをしてくれてすがすがしい気分になる一局だった。
まだ不安を拭い去ることはできないが、このレベルの戦いができるなら2次予選は何とか戦えそうだと思えた。
この将棋のおかげで昼の弁当もおいしく食べられた。
2勝1敗。




四回戦 柿木将棋

柿木さん
柿木さん

決勝常連との厳しい組み合わせが続く。
今年も早い段階で柿木将棋との対戦だ。前半戦で柿木将棋と当たるのは3年連続。
たまたまだとは思うが、現在柿木将棋との公式戦での対戦は昨年のGPW杯も含めて4連勝中で、 多くの人に「TACOSは柿木将棋に強いですねえ」と声をかけられた。だが、まだ購入はしていなかったが製品版の柿木将棋8が7に比べて相当強いという噂は聞いており、下馬評もかなり高いので正直なところ今年勝てる気はあまりしていなかった。

将棋は今年も柿木将棋十八番の振り飛車穴熊。
なんと8手目1四歩とされ、この端歩で定跡から外れてしまった。 柿木さん曰く敢えて早めに定跡を外す作戦にされたらしい。
18手目相手は▲2四歩を受けてこなかったのでこちらから仕掛けた。
26手目なんと今度は△2三歩と受けなかった!ずいぶんと挑発的だ。柿木さん自身も相当不安に思っておられたようだ。 だがTACOSも▲2四歩とは打たなかった。 △4三飛で受かるということらしく、試しに激指4でやらせても▲2四歩は打たなかった。 その後局面は落ち着いたが、やはり2筋の歩を交換して3二金の動きを制約しているのが大きく TACOS指しやすくなった。
相手の△3三金を見て仕掛けてからは好調な指し手が続く。
指しやすくなってから優勢になるまで実に落ち着いた指しまわしだ。
83手目▲4四龍では▲5二角を読んでいたのだが、△7六角から暴れられるのが嫌味に見えたらしい。あるいは詰みがらみのバグかもしれない。▲5二角なら短手数で終わっていただろう。
91手目▲6一銀打としたのもちょっとしゃれすぎだった。堅実に▲6一金と打つべきだっただろう。
その後敵陣は堅く、こちらは大駒だけという局面になり怪しい雰囲気になりかけたが 何とかうまく指し徐々に優位が拡大していった。
大勢のギャラリーから「あとはTACOSの時間が切れるかどうかだ」の声がする。
ギャラリーに呼応するかのようにTACOSはのんびりした切らしに行く指し手を続けている。 だが最後は相手が手がなくて攻めてきた端から逆襲をして無事勝利。
落ち着いた指し回しが目立つ一局だった。この勝利で私の精神状態もかなり落ち着いてきた。
3勝1敗。




五回戦 金沢将棋
金沢さん
金沢さん

続いては金沢将棋との対戦。3年連続の対戦だ。 さすがに連続して「濃い」ところとばかり当たる。
リーグ戦ではあるが、相手も2敗しており負けたら終わりという感じの戦いが続く。
将棋は一回戦に続きあまりTACOSがやったことがない対向かい飛車になった。
TACOSの作戦は棒銀で、穴熊完成前に早くも仕掛けた。
それに対する相手の30手目2四歩の反発はやややりすぎだったと思う。
銀で押さえ込む展開になり、その後 激しい戦いになったが駒得の上5二のと金が大きくTACOS優勢に。
だが49手目▲2二角成はやや緩手か。▲6二銀と打てば早く終わっただろう。
試しに激指4の検討モードでやらせてみるとAthlon64 3400+ のノートで最初は▲2二角成が最善、30秒考えて▲6二銀が最善と気付いた。 今回対穴熊の改良はやる暇がなかったのだが、こういう人間なら一目の手をTACOSにも一目で読めるようにさせたいものだ。
51手目▲3七桂もコンピュータらしい手ではあるが、ここもやはり▲6二銀かせめて角を成ったからには▲2三歩成とした方が早かっただろう。 ただこういう切らせる流れになったので57手目3九金打は良い手に見えた。
62手目3七銀は△4七歩が嫌だと思ったが、それだと▲2七歩と打つ手がありもっと後手が手に困る展開になるようだ。
こういう読みはもう私よりコンピュータの方が明らかに上だ。
以下は相手の攻めをうまく切らせて快勝。柿木将棋、金沢将棋とビッグネームを連破し意気が上がる。
4勝1敗。




六回戦 ハイパー将棋11
若林さん
若林さん

続いても決勝常連の古豪ハイパー将棋との対戦。2年ぶり、3回目の対戦だ。
ハイパー将棋はやはり得意の四間飛車で来た。
なんと46手目まで定跡で進んだ。
58手目△6一桂打がうまい受け。▲7三桂成なら△同桂が飛車当たりの先手になる仕掛けだ。この手は結構前から読めていたようだ。 金桂交換の駒損だが64手目6五歩打と進んで先手にはいい手がない。TACOS好調。
相手は▲2六金打と玉頭の攻めを緩和する手で来たがここに金を打つようでは先手苦しいだろう。
今日のTACOSは優勢になってからが落ち着いている。相手を焦らせじわじわと優位を拡大していく。
この将棋も差がついて安心して見ていられる展開になった。
TACOS好調が続き、だんご状態からやや抜け出し5勝1敗で2位グループに入る。
この調子で決勝進出が決まるまで順調に行きたいところだ。
5勝1敗。




七回戦 KFEnd
KFEndの有岡さん
KFEndの有岡さん

続いても決勝常連のKFEndと一敗同士の対決。濃い対戦相手が続く。
3年連続の対戦だ。この将棋は勝又先生に大盤解説をしていただいた。
11手目▲7八金で一旦定跡から外れるが、25手目▲7九角で再び定跡復活。がっぷり四つの矢倉になった。
解説ではコンピュータはなかなか△6四歩と突くようなことはしないという話だったが、 TACOSが突いたので「おお、ちゃんと突きましたねー」と少し感心された。 棒銀が捌け、まずまずの中盤戦になる。
67手目でKFEndに痛恨の緩手▲6四銀が出た。解説していただいたように、▲6四角ならかなり難しい勝負だっただろう。
これなら一気に勝ちまで行けるのではと期待させる安心感が今日のTACOSにはある。
TACOSは解説どおりの手順で攻め続ける。
78手目△6五桂打も解説によるとここは銀を逃げる場面ではなく、この手はいい手らしい。 解説どおりの手順で飛車が成り込め、かなり優勢になる。 その後も危なげなく攻め続け快勝。
全勝のGPS将棋が負けたため、この時点で首位に並ぶ。
あと一つ勝てれば決勝だ。
6勝1敗。



勝又先生
勝又先生による解説




八回戦 GPS将棋
GPS将棋の皆さん
GPS将棋の皆さん

一敗同士のGPS将棋との対戦。これに勝てばいよいよ決勝進出が確定する。前局に引き続き勝又先生に解説していただける事になった。
それにしてもまさかGPSがこれほど強くなっているとは夢にも思わなかった。さすがは東京大学のチームといったところか。
将棋は定跡で一気に進み(本当は途中少し定跡から抜けていたようだが、早すぎてわからなかった) 気付いたら33手目3四歩打の局面になっていた。いかにもTACOSが得意そうな局面から始まった。
銀の厚みを活かし2筋と4筋を絡めた好調な手順が続き、銀の上に歩が3枚並んで気持ちいい形になった。
それにしても今日はやや良くなったとき落ち着いた手が多く、相手は何も手出しができない。
相手は打開を狙って50手目△3三歩打ときたが、▲2三歩成がしゃれた返し技。
△2一歩の渋い受けには▲3六桂の激辛流で対抗だ。
解説によると相手の手を封じて悪くない手のようだ。
しかしそれにしてもTACOSはいつのまにこんな激辛流の手をさせるようになったのだろう。
ここ数日でつぶしたバグがなくなって末端が安定したのかもしれない。
こんな子に育てた覚えはないのだが…
相手は手がなくなって水平線気味の指し手が出るが、今日のTACOSは全部丁寧に応じる。
そして75手目▲6八銀が勝又先生に褒められた手。この形はいずれ5七の地点から攻められることが多いので、 この一手でぐっと自陣が締まった。「コンピュータはこれまでなかなかこういう落ち着いた手が指せなかった。 今回の選手権で一番の好手かもしれないよ」とのありがたいお言葉をいただく。
その後も友達を無くす手を連発し、全駒になりそうな雰囲気に。
だがGPSの時間コントロールにバグがあったらしく、GPSの時間がどんどん減っていく。121手目でGPSは時間切れ。
相手側の希望もあり対局自体も終了。
ソ連のオーバーネットで金メダルを決めた東洋の魔女チームのような決勝進出決定の瞬間だったが、 何はともあれ2年連続の決勝行きが無事決まってほっとした。
正直これほど安心して見ていられる将棋が続いて決勝進出を決められるとはまったく思っていなかった。
7勝1敗。




九回戦 KCC将棋
KCC将棋の皆さん
KCC将棋の皆さん

最終戦は昨年同様KCC将棋と対決。昨年は2次予選と決勝で往復ビンタをくらったので 今年こそはと期待していたが…

将棋はがっぷり四つの相矢倉に。 48手目ここで金を寄らないといけないようではではやや苦しいか。 55手目6六銀が紛れを生じる手に見えたが、激指4で検討したところ 他の手も難しいようだ。ここからTACOSがうまく指していく。 △4五飛と銀を取った辺りではTACOS優勢だろう。と思っていたが、検討したところ まだ先手がいいようだ。
78手目△8五歩が欲張った手。単に△6九角と打つより先に銀をどかせた方が得だと思ったようだ。
相手は銀を見殺しに▲8三飛と打ったがこれがいい手。
単に△6九角と打てば優勢だろうと思っていたが、これもどうやら思っていたよりは難しいようで、 TACOSなりに私の理解を超えたところで一所懸命読んでたんだなあと今は思う。
再度の△8五歩は▲5三角成から攻めを読んで悪手だろうと思ったが、今見ると もうここでは駄目なようで、せいぜい△6四歩からくそ粘りをするぐらいしかないようだ。
7勝2敗。



何はともあれ無事決勝進出を決めて良かった。しかも今回はなんと予選1位!で通過。
明日は総当りなので何位で通過しようが関係ないのだが、やはり気分がいいものだ。